「自社の持続性を高めてアピールする方法」IAbMエバンジェリスト育成実践コース開催報告 8月4日午後(3)

 知的資産経営[IAbM]エヴァンジェリスト育成実践コース 8月4日午後の開催報告(3)です。

 

 ブレーンストーミングの第4テーマは、ご支援先の持続性の高さ(知的資本の質の高さ)をアピールするには、どうしたら良いかです。このテーマでアイデアを出し合いました。

 

 第4テーマ 参加者(敬称略)

 ファシリテーター IAbM総研主任研究員 堀内 仁

 メンバー 安藤 健、神原 哲也(発表)、吉田 高宏

 

■ブレストテーマ: 当社の知的資産経営報告書で、当社の持続性の高さや、知的資本の質の高さをどうアピールできるか。

 

 第4テーマに関して、今回の講義では、市場がなくなるような変化に対応する企業の力が、「知的資本」であり、知的資本には、自己資本を補完する役割がある、と解説しました。

 (a). ダイオキシンの問題で市場が無くなってしまった焼却炉を縮小して、ストーブ製造へ転換した企業。

 (b). レコード針の市場縮小に対応して、注射針へ転換した企業。

 (c). 印刷業をベースに、Web制作業・広告業への参入に成功した企業。

 (d). 3M社のように、事業部ごとに、売上の30%は過去4年間に発売した新商品にする、という社内目標のある企業。

 

 自社製品の市場が縮小し、無くなっても、売上や雇用を持続できているこれらの企業は、自社の知的資本を上手く使えたのです。既存の事業、既存の知的財産権ばかりみていると、その市場が消滅すると、その事業の売上がなくなり、企業が消滅します。

 知的資本を活用できる企業は、特定の事業からの撤退があっても倒産せず、持続しています。

 しかし、この持続性があることを、ステークホルダーにアピールしていくのは、簡単ではありません。

 当社の知的資産経営報告書で、当社の持続性の高さや、知的資本の質の高さをどうアピールできるか、というテーマを事前に準備しました。

 とらえどころの無い課題であるため、参加者・ファシリテーターと現場で相談し「持続性を高め、その持続性をアピールする方法」といった方向のテーマに修正して、アイデアを出してもらいました。

 

■第4テーマの検討成果

 

 第4テーマのグループでは、BCP体制など基本から、継続的な社員啓発、熊谷敦先生からスピーチ頂いたESG投資の視点でのアイデアなどがでました。

 さらに、地域社会との関係を深めることが、ご支援先企業の持続性のアピールになる、という発見がありました。

 具体的なアイデアを紹介してきましょう。

■BCP(事業継続計画)体制の構築

 市場の衰退とは直接関係ないとしても、まず、災害など緊急事態に対して、自社がどう対応するか、計画しておく。

 より実践的には、戦争や、大不況などを乗り越えた経験のある人の話を聞いてみると良い。

 

■ビジネスの日常でできること(1)顧客との関係

 安定な収益を確保できる商品・サービスを育成する。

 それは、顧客にとって無くてはならない商品・サービスの提供ではないか。

 このような安定性を知る目的で、顧客アンケートをしても良い。

 

■ビジネスの日常でできること(2)外部との関係資産

 いざというとき、相談できる外部との関係性を把握しておく。

 製品づくりなどのパートナーとの協力関係を深めておく。

 

■持続性を妨げる要因を整理しておく

 持続性を妨げる要因として、どのようなリスクがあるか、一覧にしたい。

 リスクの重み付け、発生確率、影響度を把握し、コストを見積もる。

 

■地域社会との繋がり

 地域社会に密着して、愛される商品を継続的に売り続ける。

 地元の花火で当社の名前を読み上げてもらうなど、地域のイベントに参加することが、企業の持続性をアピールになる。

 工場見学を積極的に実施したり、社員の家族を招待して普段の仕事内容を知ってもらうようなイベントは、そのイベントに取り組むこと自体、ご支援先企業の持続性を高める。

 このような自社イベントは、地域の方や家族の方々に印刷物を渡さなくとも、地域社会への良い「知的資産経営報告書」となる。

 

■ブレストの進行と、企業の持続性に関する3つの仮説

 

 第4テーマでは、ブレストの途中で、中小機構『事業価値を高める経営レポート』知的資産経営報告書<事例集>を眺めつつ、「持続性」についての考えを深めた。

 受講生3名のうち、吉田氏、安藤氏は、お昼休みに「おすすめ書籍」についてスピーチしてくださっていたので、もう一名の神原氏に発表していただいた。

 持続性のアピール、という先行研究の少ないテーマを急に与えられた第4テーマの参加者は、試行錯誤しつつ、最終的に、次の3つ重要な仮説を発見してくださった。

 第1に、安定して収益確保できる商品・サービスの提供が、その企業の持続性を高める。

 第2に、関係資産(取引先、公共、金融機関との良好な協力関係)が、企業の持続性を高める。

 第3に、地域社会への貢献は、企業の持続性をアピールできる場である。

 

 安定して収益確保できるプロダクトや、知的資産経営でいう関係資産は、その企業の持続性に役立つから、充実した自己資本と同様に、その企業の「リスクに対する備え」である。

 そして、取引先との関係や、利幅が少なくとも集客力のある商品・サービスは、自社が困ったときに、頼りになる存在だ、という意識があると、その重要性が社内に浸透し、当社の知的資本はより充実する。

 また、地域社会との関係も、自社の持続性をアピールする場と考えると、お祭り、花火などのイベントの参加費用や、工場見学のための諸費用や、広告費の意味づけも深まる。

 

■第4テーマのブレストを終えて

 毎年の夏の花火で、自社の社名を読み上げてもらうことは、自社の持続性をアピールする良い場になっている、という新しい視点が得られた。

 地域の花火大会や、お祭りや、工場見学会や、家族の招待などのイベントへの取り組みは、中小企業にとって、知的資産経営報告書の役割を果たしている、という気づきがあった。

 たいへん興味深い視点で、企業のミッション・ビジョンを実現し、持続性を高める点でも、このような地域社会への参加や自社イベントの実施は、大きな影響を及ぼしている可能性がある。実際、地域との結びつきを重視してきた名経営者、エクセレント・カンパニーの事例は多数ある。

 「地域社会からの期待・信頼」は、すぐに収益に役立つ資産性の高い知的資産とはならないかもしれないが、その企業の持続性を高めることに役立つ「知的資本」になる。

 短時間で、このような刺激的なアイデアを出してくれた受講生各位と、議論を整理してくれたファシリテーターに感謝申し上げます。

 講義終了後の懇親会での議論を通して、企業の持続性を妨げるリスクに、どんなものがあるのか、一覧を作る仕事が、次の私たちの課題になる、という知見が得られた。

 規制対応はどうか、環境対応しているか、など、1つ1つのチェック項目は著名であっても、「その企業が持続性を維持できるかどうか」を経営支援の視点で確認していくチェック項目の一覧があると、ご支援先のサポートに有用となるだろう。

 

■IAbM総研のメンバーによる講義について

 

 今回の3本の記事では、「2018年IAbMエバンジェリスト育成実践コース」の第3日目の午後の部について、ワーク(ブレーンストーミング)を中心にその成果をご報告しました。

 IAbM総研では、経営者、創業者、従業員、金融の融資担当者、中小企業診断士、弁護士、弁理士などに向けた講義のご相談を受けています。講義の企画と、講師の派遣と、必要なアンケートの実施及び分析です。

 ご関心をお持ちの方は、IAbM総研のお問い合わせページからご連絡くださ

 

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鈴木 健治(弁理士・経営コンサルタント)

特許事務所ケイバリュエーション 所長

 

・育成実践コースでは、「経営戦略に役立つ知財・知識の資産化」を担当。

・経済産業省産構審小委員会の臨時委員、(財)知財研 知的財産の適切な活用のあり方に関する委員会委員、日本弁理士会中央知財研究所 知財信託部会の研究員などを歴任。

・著書に「知的財産権と信託」『信託法コンメンタール』(ぎょうせい)、論文に「知材重視経営を支えるツール群に関する一考察(月刊パテント)」などがある。

公式サイト: http://kval.jp/