知的資産経営[IAbM]エヴァンジェリスト育成実践コース 8月4日午後 「経営戦略に役立つ知的財産や知識を、どう会社の資産にするか」講師鈴木健治の開催報告の1件目です。
この開催報告では、受講者、ファシリテーターと取り組んだブレーンストーミングと、その成果の一部をご紹介します。
ブレーンストーミングの第1テーマは、「収益性のある知的資産を見つけ出すための質問とチェック項目」です。
第2テーマは、「知的資本」で準備していましたが、第1テーマでの議論の盛り上がりを継続すべく、「収益性ある知的資産を見つけ出すために、ご支援先に作っておいてもらいたいリスト(一覧)」としました。
第1・第2テーマ (敬称略)
ファシリテーター 鈴木健治
メンバー
受講生 川居 宗則、平野 匡城、羽田 巧、安藤 健、神原 哲也、吉田 高宏
IAbM総研 主任研究員 熊谷 敦、堀内 仁
第3テーマを開催報告(2)、第4テーマを開催報告(3)として、別の記事でご報告します。
■ブレストのテーマ 収益性のある知的資産を見つけ出すための質問とチェック項目
第1テーマは、知的資産、特に、収益性の高い知的資産を見逃さず、話題にするためには、ご支援先の社長やご担当者に、どんな質問文をぶつけたいか、その質問項目です。
今回のブレーンストーミングは、オズボーンのオリジナルの方法を、三菱樹脂や高橋誠先生により日本風にアレンジされた「カードBS法」(高橋誠『問題解決手法の知識<新版>』(日経文庫 I22)pp.67-78)をベースにしました。
ファシリテーターがテーマを示し、「考える時間」に、静かに、1つアイデアを1枚のポストイットに記載します。
「発表する時間」に、全員が3枚や5枚書いた段階で、一人1アイデアずつ、テンポ良く順番に発表していきます。
事前に、ファシリテーターから、批判厳禁、自由奔放、量を求める、アイデアの共有、順番発表などのブレストのためのルール説明をし、その同意書にチェックしてもらいました。
■第1テーマの検討成果
収益性のある知的資産を発見するための質問として、正面から、裏面から、エピソードを聞き出すために、多彩なアイデアが出されました。
質問文を覚えておくと、ご支援先の社長や担当者と面談する貴重な時間内に、知るべき内容を聞き出すことができます。
様々な料理方法、整理の方針があるでしょうが、このご報告では、単純に一覧にします。色々な局面に応じた体系化ができるでしょう。
今回、IAbM総研の主任研究員である熊谷 敦先生、堀内 仁先生に加えて、中村 良一代表理事、坂野 直人代表理事からもアイデアを頂きました。
特にどのアイデアがどなたのものとは明記しませんが、具体的なエピソードを聴き出せそうな質問文は、経験豊富な方から頂ける傾向がありました。
支援者として知りたいことと、質問すべきこととは、違うということを、お考え頂きながら、下記のリストをご支援のためにご活用ください。
質問文そのものを、列記していきます。ニュアンスの違いや、聴き出せる質問文かどうかという差がありますので、意味が同じでも、両方掲載しています。
■商品・サービスについて
10年以上、売れ続けている商品は何ですか。
インスタグラムででている商品はありますか。
メディアで取り上げられたことのある商品はありますか。
デザインの良さで売れている商品はありますか。
誰もが知っている商品はありますか。
資金繰りに困った時、簡単に売れる商品はありますか。
商品・サービスが、お客様に選ばれている理由は何ですか。
他社より高く買ってもらえるものはどれですか。
利幅がとれている商品はどれですか。
その商品、他からパクられませんか。
その商品、10年後も売れ続けるにはどうしますか。
ご支援先との対話では、答えやすさが重要なので、「ありません」と回答されてしまわないように、「ありますか」よりは「どれですか」が好ましいです。
「御社の商品・サービスで、有名な、わりと知られている商品やサービスはどれでしょう。集客力のある商材や、メディア紹介があったり」などと、答えの窓口が広い質問で、対話をしながら、情報を引き出してください。
■知的資産を見つけ出すために、深掘りできる質問文
どのような回答がくるか分からず、支援者側にも知識・経験が必要となりますが、貴重なエピソードを教えてもらえる可能性のある質問文のアイデアが寄せられました。
ライバルとの違いを教えてください。
他社製品との違いはどこでしょう。
どんなきっかけで売れましたか。
顧客から評判が良いのは、御社のどの点ですか。
この商品・サービスは、何年ぐらい続いていますか
どういうところで、儲けてますか。
顧客は、どんなひとたちですか。
お客様は、なぜ、それを買っていると思いますか。
どんなきっかけで、作りましたか。
コストを手っ取り早く下げる方法はありますか。
お客様と一緒に、海外に行ったことはありますか。
トラブルの解決で、自社のどんな経験が役立ちましたか。
なぜ、今まで、事業を続けられたと思いますか。
コンサルが嫌がられる瞬間として、自己啓発的な質問が寄せられる瞬間があります。「またか」、「知るか」、などと思われてしまうと、ご支援先の知的資産を発見するどころではありません。
「お客様は、なぜ、それを買っていると思いますか」は、最低の質問文にも、最高の質問文にもなる劇薬です。
「この商品、どんなところを褒めてもらえましたか」など、事実を質問し、深い理由は支援者側が分析していくことを原則としたいです。
なぜ売れているのか、こちらの分析もお示ししながら、一緒に考えるように、劇薬的な質問文を使っていきたいです。
経験豊富な方からは、エピソードを聞き出しやすい質問文が寄せられました。お客様と一緒に海外にいったエピソードや、トラブルの経験や、どんなきっかけで商品・サービスを開発したかなど、現状を話してもらって、寄り添って、一緒に検討しようという姿勢をお伝えできる、使えるようになりたい質問文です。
「コストを手っ取り早く下げる方法はありますか」は、「それを考えるのが支援者の役割だろ」と返ってきそうでもありますが、手っ取り早くできるコスト削減を、決してやらない企業様、社長様の場合、その企業が本当に大切にしている「何か = 知的資産」を、聴き出せる可能性があります。
■優れた人的資産を発見するための質問文
特別なスキルを持った人はどの人ですか。
御社のインフルエンサーはどなたでしょう。
一番信頼できる社員は誰ですか。
従業員のみなさんの雰囲気はどうですか。
経営目標は、社員の皆様に浸透していますか。
他社よりも、早くできることは何ですか。
他社の商品を販売できるとして、御社でうまく売れるでしょうか。
売り方を自由にできるとして、他社の商材で取り扱いたいものはありますか。
客先にお世話やご迷惑を掛けてしまったことはありますか。どう対処したか、そのデータが残っているか、教えてください。
自社の社員に対する、外部の人間による評価を、気にしてくださる経営者は多いです。ご支援先企業で働く人の魅力を見つけて、社長・専務・部長に報告する機会は、とても楽しい仕事です。
上記の質問文は、ご支援先企業の役職者への質問文としても良いですし、支援者としてその企業に入るときに、自分自身が見つけ出すべき情報の項目としても有用です。
「他社よりも早くできることは何ですか」などは、ちょっとした立ち話で質問でき、その回答から、支援者側が人的資産を探る分析ができそうです。
他社の商品を自社で扱えるなら、などの仮定のある質問も、社内の人的資産の本来的なポテンシャルを見つけ出そうとするときに、役立つでしょう。
■ご支援先企業に、用意してもらいたいリスト(一覧表)
ご支援先企業との面談が決まり、「なにか準備しておきましょうか」とおっしゃってもらえた時、先方の負荷も考慮しつつ、「それでは社長1つだけ、○○のリストをお願いできますか」という場面を想定します。
ブレストの状況から、ファシリテーターの判断で、事前に用意した第2テーマ(知的資産)ではなく、このテーマに変更しました。第1テーマについて、良いテンポでアイデアがでていたので、その続きで考えてもらえる内容にすることで、発想を拡げてもらいました。
どのようなリストをもらえると、ご支援先の知的資産を発見できるか、アイデアを出し合いました。
リスト名を並べていきます。
従業員名簿。所属、職歴、概略、保有資格、得意分野。
社員のスキルと在籍年数
特定の従業員にしか対応ができないことのリスト。
顧客一覧(名称、所在地、売上高、売上品目、利益)
商談記録(年間の提案、問い合わせの内容)
顧客別の取引きっかけのリスト
ロングセラー商品のリスト
製品別のシェア
製品別のLTV(顧客生涯価値, Life Time Value)、LTR(顧客当たり売上)
ライバルとの差別化リスト
特許の分野別出願件数
ニュースリリースの分野別本数
一生懸命開発したのに、全く売れなかった製品のリスト
他社に依頼したらできなかったので、御社に依頼したという製品のリスト
人的資産、とくに従業員のスキルに関するリストを用意してもらいたい、というアイデアが多く集まりました。経験豊富な方からは、まずは組織図、次いで従業員リスト、という意見がありました。
顧客との関係では、一覧、商談記録、取引のきっかけリストなどが提案されました。確かに、商談記録を見せてもらえると、具体的で、かつ、ご支援先で実現可能な改善策を提案しやすいでしょう。
ご支援先の持続性を、新しいビジネスへの取り組みや、環境変化への対応が、どの程度なされているかを知るには、ニュースリリースの分野別本数なども、良いきっかけになりそうです。
全く売れなかった製品のリストというのは、ご支援先企業がしたいことと、市場とのギャップがわかる興味深い情報です。しかし、この質問を受け止めて、具体的に提案をしていこうとするには、支援者側にかなりの実力を必要とするでしょう。
この第1、第2テーマは、全員で取り組み、ブレストの手順を体感してもらいました。第3、第4テーマは、2グループに分かれて、より具体的な検討をしてもらいました。
続きます。
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鈴木 健治(弁理士・経営コンサルタント)
特許事務所ケイバリュエーション 所長
・経済産業省産構審小委員会の臨時委員、(財)知財研 知的財産の適切な活用のあり方に関する委員会委員、日本弁理士会中央知財研究所 知財信託部会の研究員などを歴任。
・著書に「知的財産権と信託」『信託法コンメンタール』(ぎょうせい)、論文に「知材重視経営を支えるツール群に関する一考察(月刊パテント)」などがある。
公式サイト: http://kval.jp/