目に見えないものの価値

 2017年のノーベル物理学賞は、アインシュタインが予言した重力波をLIGO(ライゴ)という観測施設によって初めて直接観測した国際チームを率いた3人の米国人研究者に贈られることになった。この業績により天文学の世界に「重力波天文学」という新領域が切り開かれ、我々人類はまたひとつ「目に見えないもの」を可視化する手段を手に入れたことになる。重力波によってビッグバンから1秒以内の様子も分かるようになるといわれている。

 人類の科学の進歩は、このように「目に見えないもの」を「目に見えるもの」に変えていく悠久なるプロセスであった。その科学技術の行き着く先にあるのが「人工知能(AI)」であり、いまや人類は自らが作り出したこの怪物にその存在を脅かされようとしている。チェスは言うに及ばず、将棋や囲碁などの高度な知的ゲームですらAIにかなわなくなってしまった。英オックスフォード大学でAIの研究を行うマイケル・A・オズボーン准教授が2013年に予測した「あと10年で『消える職業』『なくなる仕事』」の筆頭には、「スーパーなどのレジ係」「レストランのコック」「受付係」などに交じって「会計士・会計監査役」という高度に知的な職種も含まれている。スーパーなのどのレジ係に至っては、すでに「Amazon Go」や一部のコンビニチェーンでも無人化の実証実験が始まっていて、予測の通り「仕事が消える」事態が現実になりつつある。

 では未来の企業の従業員はすべてAIに取って代わられるのだろうか?科学者の間では芸術家やコンサルタントなど、クリエイティブな仕事はなくならないと予測している。彼らに共通する資質は何だろうか?それこそが、科学技術とは違った切り口から「目に見えないもの」を可視化する能力ではないだろうか。AIは膨大な過去のデータから高い確率で正しい答えを導きだしてくる。しかしながら、その対象となるのは「目に見えるもの」になったデータだけである。AIが必死に探しても見つけられないものが「見えている」人が真にクリエイティブな人だといえるのではないだろうか?「知的資産経営(IAbM)」というのは、「目に見えない価値」を可視化するプロセスである。AIが無視して通り過ぎた小さな領域にこそ、未来のビッグバンにつながる種子が埋まっている可能性がある。我々の研究は、それを見つけに行くための遥かなる旅になるのだ。

 

投稿者 | 坂野 直人