「知的資産経営にITをどう活用できるか」IAbMエバンジェリスト育成実践コース開催報告 8月4日午後(2)

 知的資産経営[IAbM]エヴァンジェリスト育成実践コース、8月4日午後の開催報告(2)です。

 ブレーンストーミングの第3テーマは、知的資産経営にITをどう活用できるか、としまして、アイデアを出し合いました。

 第3テーマ (敬称略)

 ファシリテーター IAbM総研 主任研究員 熊谷 敦

 メンバー 川居 宗則、平野 匡城、羽田 巧

 

■ブレストのテーマ: ITは知的資産の収益性向上や人的資産や関係資産の構造化にどう役立つか。

 知的資産経営とIT(情報技術)の関係としては、例えば、知的資産の収益性向上のためにITをどう活用すべきか。また、人的資産や関係資産を構造資産にしていくためにITをどう使えるか、などです。

 

■第3テーマの検討成果

 第3テーマのグループでは、ITを活用する多数のアイデアが集まりました。ファシリテーターからの提案と解説で、そのアイデアを、「人的資産」、「構造資産」、「関係資産」という知的資産の3つの切り口で整理しました。

 発表は3名で、この切り口ごとに分担して、発表していただきました。

 

■人的資産とIT

 

 人的資産については、[1] 社員のスキルの一覧、[2] 従業員のスキルアップの意思や見通し、[3] 社員の働いている様子などを、社内用にデータ整備していく、といったアイデアが集まりました。

 

■構造資産とIT

 構造資産については、社内のナレッジ(知識,知恵)を会社の知的資産にしていくために、[1] 失敗事例をカード化し提案してもらう、[2] 手作業でどんなことをしているか一覧にする、[3] 社内wikiを作っていく、[4] 新しいプロジェクトで行った作業リストを共有する、などの社内情報の他、[4] コア技術に関連するニュースを自動収集する、といった最近のクローリング/スクレイピング技術の利用も提案されました。

 また、[5] 知的資産へどう投資するかの検討案を、社内の管理会計と連動させる、という興味深いアイデアもありました。

 [6] 経営課題を社内で共有することは、できていそうで、実際には難しさがあります。経営課題を社内で本当に共有するためにも、ITが役立ちそうです。

 これらの情報管理の基本として、[7] IT資産の状況や、[8] 情報セキュリティーの状況自体、ITで管理していくことが提案されました。

 

■関係資産とIT

 

 関係資産については、「顧客の声」「口コミ」への注目度が高かったです。[1] 顧客の声、[2] 口コミ、[3] 顧客クレーム、[4] 問い合わせ回数や時間など、ビジネスの現場に存在しながら、散逸しがちな情報を、グループウエアなど既存のツールを使うことで、蓄積していくことができます。

 顧客からの問い合わせ回数や時間は、他の要素との相関関係・因果関係を統計分析し、顧客の温度差などを定量的に把握するのに役立ちます。

 また、顧客の声やクレームなどの文章の情報がデータとして蓄積されていくと、深層学習(AI,人工知能)などより高度な分析をしていく可能性も生まれます。

 統計処理や深層学習など高度なツールを使わなくとも、顧客の声を社内で共有し、なぜ売れているのか、売れていないのかを社内で話し合い、顧客クレームに全社の知恵で対応できるようになれば、組織力は飛躍的に高まるでしょう。

 

 外注先との関係では、[5] 社員と外注先のリレーション・マップをつくるなど、関係資産をIT活用により見える化する提案がありました。

 

 取引先や顧客からの評判・評価を蓄積し、評判の良い商品の一覧をITの利用で作れないか、というアイデアがでました。さらに、なぜ評判が良いかの理由も一緒に管理したい、とアイデアが積み重なっていきました。このアイデアの積み重なりが、ブレストの楽しいところです。

 実現できたらとても面白い着想となりました。

 

■知的資産経営に役立つITの具体的なツール

 ファシリテーターと、メンバーの一部が参加した懇親会では、引き続き、どんなツールが使えるか、話題が発展していきました。ワード、エクセルでの入力からのスタートで十分で、社内のITスキルが向上していけば、サイボウズ、LINE WORKS、SLACKなどグループウエアやコミュニケーションツールを上手く使っていけば、今日の話題の大半は解決できるだろう、との情報共有ができました。

 顧客の声を入力して、エクセルのようなスプレッドシートで共有するには、Googleフォームも使えますし、特定のキーワードに関するニュースの収集であれば、Googleアラートもあります。

 深層学習フレームワークとして、オープンソースのChainer(チェイナー)の名前もでました。講師の鈴木健治は、重回帰分析にRを使っています。

 

■第3テーマのブレーンストーミングを終えて

 

 本年度の受講生は、ITスキルをお持ちの方が多かったため、知的資産経営とITというテーマを準備しました。

 その講師の期待通り、知的資産経営の効果を高めるために、本当にあると良いITの活用法が提案されました。

 このブレストで、知的資産経営に取り組む経営者や、その支援者は、ご支援先のIT基盤をどう構築していくべきかを検討し、提案する際に、見逃してはいけない「検討項目」を得ることができました。

 「検討項目」は、上記の通り、社内の失敗事例であり、社員と外注先の関係であり、顧客や見込客からの評判やクレームです。

 

 知的資産経営をより深め、社内の人的資産や関係資産を企業としてより活用しやすい構造資産に変えていくために、特別なソフトウエアを新規開発することなく、有償/無償の既存のソフトウエアやサービスを利用すれば十分であることも、示唆されました。

 

 第3テーマに参加した受講生各位と、ファシリテーターにお礼申し上げます。

 

鈴木 健治(弁理士・経営コンサルタント)

特許事務所ケイバリュエーション 所長

・経済産業省産構審小委員会の臨時委員、(財)知財研 知的財産の適切な活用のあり方に関する委員会委員、日本弁理士会中央知財研究所 知財信託部会の研究員などを歴任。

・著書に「知的財産権と信託」『信託法コンメンタール』(ぎょうせい)、論文に「知材重視経営を支えるツール群に関する一考察(月刊パテント)」などがある。

公式サイト: http://kval.jp/